アルルの放課後
7.「コレハ草争奪戦線!」その4





ウィッチは、イスやらティーセットやら一式を袋にしまい、箒にまたがっていた。
それを、アルル達が見送る。
ドラコは一件落着するなりさっさとサタンの塔へ戻ってしまったので、この場にはいない。
よって、五人が、ウィッチのいるやや上空を見上げていた。
「じゃあね、ウィッチ。
またいつか!」
「ええ、今度お店にいらしたときは、サービスでお安くしておきますわ!」
「うん、ありがとう!」
そんな、他愛ない会話を交わし、ウィッチは空へと舞い上がる。
その姿は優雅でもあり、傾いた赤い太陽の中、淡く照らされていた。

どんどん影が小さくなる……その前に、ルルーがふと何かを思いついたようで、ウィッチを呼び止める。
「ねぇ、ちょっと聞いても良いかしら?」
その声は何とかウィッチに届いたらしく、「何ですの?」と言いながら、ウィッチは少し近くまで戻ってきた。
「吸収された力を、一時的にでも良いから元に戻す薬って、ない?」
そうでなくとも、一般人並みに落ちた力を少しでも補強する何かがあれば、これからの道のりが大分楽になる。
その台詞に、アルルは、「そっか!」と言って顔をウィッチに向けた。

そして、これまでの事情を、たどたどしく話していく。
アルルはルシファー先生に頼まれて、ナニカノ草を採りに来ていること。
ルルーはケガをしたハーピーの代わりに、カブモド樹を採りに来た道中魔物に襲われ、力を失っていること。
シェゾはアルルに用事があったのだけれど、手伝ってもらっていることなど、話せる限り色々話した。

ウィッチは少しの間、話を聞きながら「うーん」と唸っている。
あてはないわけでもないが、ごく限られている、といったところか。
「うーん、ハーピーさんと聞いて嫌なこと思い出してしまいましたわ」
違った。
答えを期待していたルルーは思わず、「そんなことどうでも良いのよ!」と、顔をしかめている。
しかし、次の言葉で、ルルーはすぐに表情を変えた。
「先日、ハーピーさんに空中で衝突してしまったせいで、箒が一本ダメになってしまいましたし」

そのとき、アルルはルルーの額に青筋ができるのを目撃してしまった。
そう、何と。
ハーピーがルルーと一緒に東の森に来られなくなった原因は、ウィッチだったのだ!
つまり恐らく、ルルーの飛躍的な思考から行くと……。
ウィッチがハーピーにケガをさせた→ハーピーは来れなくなり、ルルーが一人で来る羽目に→単独行動により、魔物に遭遇→ルルーは力を失った。
よって、全てはウィッチのせい!
と、いう結論に達したと思われる。

「うふふふふふ……」
怒りの頂点を極めた、不気味な笑い。
ルルーから沸き立つ危険なオーナに、ウィッチは思わず後ずさった。
「な、何ですの、一体……?」
顔を引きつらせたウィッチの声はうわずっていた。
無理もない。
今のルルーを目の前にしては、とても平生ではいられなかった。

ルルーの鋭い視線が、ウィッチに突き刺さる。
ウィッチは声にならない悲鳴を漏らした。
「しらばっくれてんじゃないわよ、諸悪の根元がーーーー!」
「きゃーーーーー!!」
ルルーの放ったハイキックに、ウィッチは恐怖から悲鳴を上げ、回避した。
力が失われているのにもかかわらず、ルルーの格闘家としての威圧感は、未だ健在だ。
ハイキックを放った直後の今でも、すでに体勢を直し不気味な笑いとオーラを放っている。

これにはアルル達も、ルルーの周りを離れる。
側の木の影から顔を出し、シェゾがウィッチに向かって叫ぶ。
「おい! 何か解決策があるなら、早く言った方が身のためだぞ!!」
言う間にも、攻防戦は繰り広げられる。

本当なら怯むまでもない攻撃だ。
アルルから事情を聞いたため、ルルーにいつもの馬鹿力がないことは判りきっている。
しかしウィッチは気迫に押され、すっかり動転していた。
「わわ、分かっていますわ!!」
「解決策はあるのか?」
シェゾの問いに、ウィッチは即答する。
「あ、あります!!」
ウィッチの回答を聞くなり、ルルーの攻撃が止まった。

ウィッチは、ホッと胸を撫で下ろすが、あまり間をおくとまたルルーから殺気が来ると察し、すぐに口を開く。
「ナニカノ草ですわ!
あれには主に三種類あるんです!
一つは体力回復の薬となる物。
もう一つはあらゆる病気を治す物。
……と言っても、さっきのアルルさんの話を聞く限り、病気などではなさそうですわ。
となると、最後の一つ、潜在能力を一時的に引き出す物を探すべきですわ」
「見分け方は?」
「私が説明しなくても、シェゾなら知っているでしょう?」
言われて、シェゾに注目してみると、当然だ、と言うような顔をしていた。
同時に、またオレか、という顔も、器用に作っていたが。

ルルーの意識がシェゾにずれた隙に、ウィッチはハイキックの届かない上空へと逃れる。
そして、別れの言葉を必死でまくしたてる。
「では、私はこの辺で行かせてもらいますわ!
では、ごきげんよう!」
「あ、ちょ、ちょっと!」
急にいなくなるウィッチを、ルルーはとっさに呼び止めようとするが。
今度はノンストップで、ウィッチは空の遠くへと行ってしまった。

ウィッチが小さくなっていく速さから見ると、かなりのスピードが出ているのだろう。
ハーピーにケガをさせたときとどちらが速いかは分からないが。
ルルーはウィッチを呼び止めものの何も言うつもりはなかったのだが、ウィッチの運転っぷりを見ていると思わず「安全運転しなさい」と言いたくなってきた。
しかし、その言葉は放たれることもなく、ウィッチは見えなくなってしまった。
「あー、行っちゃったわ……」
ウィッチの去った方の空を見上げ、ルルーが呟く。
特に用もないので別に良いのだが、何も一目散に逃げなくたって良いだろうに。
原因をつくったルルーは、理不尽にもそんなことを思っていた。

だがすぐに思考を切り替え、アルルの方へ向き直る。
ルルーは、にっこり笑った。
「さぁ、行きましょう!」
「うん!」
「そうだな」
「ぐーーー!!」
ルルーの言葉に頷き、仲間達はハイフラワーにも別れを告げ、再び歩き始めた。
アルルの目的、ルルーの目的。
ナニカノ草の生えている場所を目指して。

数歩進んだ所で、アルルは歩きながら振り返る。
そして、大声で叫んだ。
「ばいばーい、ハイフラワーちゃーん!!」
その声は、森に木霊して、ハイフラワーの耳に木霊して。
「さようなら!」
ハイフラワーは、相応の答えを返した。

そしてアルル達はその場を離れ、コレハ草の真ん中で、ハイフラワーは一人静かに佇んでいた。
久しぶりに賑やかとなった一時に、ハイフラワーは疲労感を覚えた。
それだけに楽しかった。
閑散とした森の中に住まい、その雰囲気が好きであるハイフラワーだが、たまには賑やかなのも悪くはない。
住み慣れた森の中でも、アルルたちが去った後には、ほんの少しだけ寂しいような気がした。

赤くなった太陽が、ハイフラワーの半透明の体をぼんやりと照らす。
淡い影が長く伸びていた。
やがて、アルル達の姿は木々に隠れてハイフラワーからは見えなくなった。

誰もいない、その場所で、ハイフラワーはにっこり笑う。
そして精霊としての実体、人には見えない姿へと、変形していった。
影が消える。
ハイフラワーの姿が見えなくなると、コレハ草が風に吹かれる音だけが辺りに残された……。




続く



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