ソラノテガミ

Happy☆Halloween

 暗い廊下に、光と共に笑い声がこぼれる。ドアの中には大きな部屋があるが、その大半は大きなクローゼットによって埋め尽くされている。開け放されたクローゼットの中にはマントやスーツなど、日常ではおよそ使わなさそうな衣装でいっぱいだった。その一つをとって、銀色の髪を持つ長身の青年――シェゾがため息をつく。
「あのなぁ。ガキのイベントに何で俺まで参加しなくちゃならないんだ」
 隣で黒髪の青年、ラグナスが苦笑した。笑うとまだ顔立ちに少し幼さが残っているのが判る。
「仕方ないだろう。俺だってホントは参加したくない」
「でもな」
 シェゾが声を荒げる。
「お前はまだ十代だろう。俺はいったいもういくつだと思ってるんだ!」
 ラグナスはしばし沈黙した。数度瞬きをして、かすかに口元を引きつらせた。
「あはは、それは大変だな」
 だいぶうわずった声で答えたが、シェゾは同意されたことに満足したようで、気にしていなかった。ラグナスは心の中で「シェゾ、あんたいったい何歳なんだ!」と何度も繰り返したが、何とか口には出さなかった。聞いてはいけないような気がした。
 結局会話はまた最初に戻り、愚痴が始まる。服が選び終わるまで、輪のようにぐるぐると回っていた。
 数十分ほどして、二人が何とかまともそうな服を選んだところで、ノックがした。廊下に続くドアとはまた違う、隣の部屋につながるドアだ。
「アルルたちかな?」
 ラグナスがつぶやくが、シェゾは「誰でも良い」と言ってしかめ面をする。無理矢理イベントに参加させられたことで不機嫌になっているようだ。ラグナスは無理もないかと思ったので、特に何も言わずに視線をドアの方へ向けた。
「どうぞ」
「はーい」
 ドアの向こうから幼さの残る少女の声がして、扉が開いた。ドアから黒い耳がのぞく。ラグナスは思いも寄らぬ物体に一瞬警戒するが、すぐにそれが、少女の握るカチューシャだということがわかった。少女が仮装しているのかと思えば、そうではなかった。普段は天真爛漫の少女であるアルルが、金に輝く瞳を曇らせていた。
「あれ? アルルはまだ仮装していないのか」
 ラグナスが言うと、アルルは割れた風船の中の空気のように、一気にしゃべり出す。
「そうなんだ、大変なんだよ! このままじゃハロウィーンパーティーに間に合わないのに、全然決まらないの! でも黒猫か天使かどっちかにしようと思うんだけど、どっちも可愛いから、なかなか決まらないんだー!」
 泣きつく勢いでまくし立てるアルルに、ラグナスは思わず後ずさった。
 このたび、一同が参加を強制されたイベントとは、ハロウィーンである。「Trick or treat!(お菓子をくれなきゃいたずらするぞ)」を合い言葉に、仮装した子供たちが家を訪れてお菓子をもらい歩くイベントである。実際魔導世界には(似たようなイベントはあるにしろ)そんなイベントはなかったのだが、毎度のごとくサタンがいきなり考案したのだ。何でも異世界の行事らしい。
 仮装したアルルとカーバンクルの姿が見たいというのを理由に、知人友人を巻き込んで盛大なイベントを作り上げてしまったのだ(もちろん、アルルたちに怪しまれないために)。それに巻き込まれたのがシェゾであり、機嫌が悪くなるのはいたし方がない。サタン自らにより強大な魔力をもって脅されたら、いくらシェゾでも逆らう気にはなれなかった。ラグナスの方は、半ばアルルに押されてやむなく参加となった。
 お菓子がもらえるせいか、人一倍楽しみにしていたアルルは、焦っていた。シェゾは相変わらずくだらない悩みだなと呆れたが、アルル本人にしてみれば重大な悩みだろう。
「わたくしとしては」
 アルルの後ろからウィッチが現れた。彼女はいつもの普段着だ。その名の通り、魔女の仮装をしているのだろう。
「黒猫の方がいいと思いますわ。天使はハーピーがいますし」
「でも、ハーピーはイベント実行委員の方で忙しいから、仮装はしないって」
「なら天使にすれば良いんじゃありませんこと?」
「黒猫も可愛いんだよ~!」
 一歩も進まない会話に、シェゾは思わず「くだらない」とつぶやいた。それを見事に聞き入れ、アルルはシェゾをにらみつける。
「君はそのまんまじゃないか!」
「どこがだ。吸血鬼の格好だとわかるだろう?」
「わかるけど……」
 普段から黒ずくめの格好をしているせいもあって、シェゾの吸血鬼は妙に様になっていた。青白いとは言わないが割と白い肌に、端整な顔立ち。ビジュアル的には文句なしだが、何よりその冷たく射抜くような視線は、まさに吸血鬼そのものだった。
「シェゾ、君もしかして本当に吸血鬼だったりしない?」
「ふざけるな」
 本気で怒気を含んだその声に、アルルは話題を逸らそうと決めた。
「あのさ」
 アルルは壁により掛かって成り行きを見守っていたラグナスの方に視線を向ける。
「ラグナスはどっちが良いと思う?」
「え?」
 話題を降られることは予想していたが、まだ答えを考えていなかったので、ラグナスは少し焦った。二つに一つだ、適当に決めてしまおうと思い、とっさに浮かんだ方を言う。
「黒猫、かな」
 言ってから、明るいアルルには天使の方がよほどぴったりだと言うことに気づく。「天使も良いかな」と言い直そうとして、アルルの大声がそれを遮った。
「あ!」
「な、なんだい?」
「ラグナスは狼男だね?」
 ラグナスの全身が視界に入ったことでようやく気づいたらしく、アルルはうれしそうに笑う。
「獣系はおそろいだね♪ じゃあやっぱりボクは黒猫にしておこう!」
 そう言ってきびすを返し、隣の部屋へと戻っていった。
 ドアが閉じる。部屋の中に残された三人は、同時にため息をついた。
「騒がしいな」
「全く、私なんて選択権がないんですから、贅沢な悩みですわ」
「確かに、スケルトンTとかゾンビとかも、選択権はないよな」
「そうなんですのよ~」
 シェゾは「その方が楽で良さそうだ」とは思ったが、またまくし立てられても何なので、今度こそ黙っていた。
 それからラグナスとウィッチが世間話を始めたので、シェゾは早々に立ち去ってしまおうと思った。だからといってパーティー会場へ足を運んで仮装姿をさらす気はむろんなく、どこか人気のないところでうろうろしていようと思った。
 しかし闇の魔導師とは元来運の悪い生き物なのか、シェゾがドアノブを握る前に、ドアが内側に開いた。
 小気味良い音がし、ラグナスとウィッチガ振り返る。入り口の方をみると、シェゾが鼻頭を押さえてうずくまっていた。ドアが開いているところを見るに、誰かが開けたドアに思い切りぶつかったらしい。幸い鼻血は出なかったようで、シェゾはすぐに顔を上げた。
「何しやがるサタン!」
「大変なのだ!」
「またかよ……」
「何のことなのだ?」
 ついサタンの知るはずもないさっきの掛け合いのことを口にしてしまい、シェゾはばつの悪そうな顔をする。
「あー、良いから続けろ」
 サタンは何か言いたげだったが、緊急事態のため「そうか」とうなずいた。
「実は」
「仮装が決まらないとか言うんですの?」
「私の台詞をとってはいかん!」
 予想通りの展開に、ため息をついたのはシェゾだけではなかった。
 サタンは今までどこにいたのか、すす汚れたマントを羽織っていた。おおかた準備の途中で何かトラブルでも起こしたのだろうが。まだ普段着のままで、おそらく服を見に来たのもたった今だろう。
「今まで準備に追われていたものでな……何が残ってるんだ?」
 サタンが三人の服装を一瞥したので、シェゾはすぐに仮装のことを聞いているのだと理解した。ハロウィーンの仮装として今回用意されたのは、人間の形をした怪物や、夜の生き物などである。吸血鬼に狼男、魔女、黒猫の他に……フランケンシュタインやゴースト、コウモリもある。満月や墓石などの大道具系はのぞいて、残っているのはもうあまりないだろう。むやみに人を呼び集めて仮装をさせたのだがら、いくらよけいなアイディアばかりを思いつくサタンでも、もうネタ切れのハズだった。
 まだ誰もやっていなさそうな仮装は何があるかと考えてはみるが、三人はまだ部屋から一歩も出ていないので、アイディアなど浮かぶはずもない。考えている振りをしてうつむきながら、実際はどうサタンを追い払うかについて思考を巡らせていた。
「そう言えば」
 ウィッチがつぶやいて、サタンが一瞬でそこまで移動する。誰もが思わず「げ」とつぶやいたが、サタンがものすごい形相で問いつめてきたので、ウィッチはもう後には引けなかった。
「隣の部屋に……まだ残っているのがありましたわ」
「本当か!」
 それが何かも聞かず、サタンは隣の部屋のドアノブを回す。直前でラグナスが叫んだ。
「待て、隣ではアルルが……」
 皆まで聞かず、ドアが開いた。天井まで届くかという巨大な鏡の前で、アルルがカチューシャを頭につけている。髪型の関係でどうも苦戦しているようだ。その背後に、サタンが現れた。鏡に映るサタンの姿はアルルにも確認できた。はじけるように振り返り、とっさに叫ぶ。
「きゃ~~~~っ!!」
「へ? アルル?」
 よく状況が把握できていないサタンだけがきょとんとしている。シェゾもラグナスも肩をすくめ、シェゾは我関せずと言った感じで背を向ける。勢いよく飛び出してせいで止まれないサタンは、前方から飛んでくる物体をまともに顔面で受け止めることになった。
 ゴンッ
 サタンの眉間にオレンジ色の物体がクリンヒットする。サタンの脳裏に星がはじける。代わりに眼前が真っ暗になった。
 サタンの顔面からバウンドして、飛来した物体が宙に舞った。分厚い皮の中は空洞で、一部が三日月型に切り取られている。アルルがとっさに投げたのは――ハロウィーン用のカボチャだった。
「ジャックオーランタンですわ」
 ウィッチガにっこりと笑う。
「それならまだ、誰も仮装してなくてよ?」
 衣装部屋においてあると言うことは、まだ誰もその仮装をしていないということである。カボチャのほとんどは飾り用であるため、衣装用はウィッチとアルルが衣装部屋に入った当初から一種類しかなかった。アルルが延々と悩んでいたおかげでかなり長い間ウィッチは衣装部屋にいたので、確かである。
「そういえばあれ、あまり見なかったなぁ」
「ああ、確かにこっちでは見かけなかったが」
 あからさまに笑いをこらえ、サタンがいったいどうでるのかを見守る二人。立派な二本の角を持つサタンがカボチャをかぶったら、さぞかし勇ましいカボチャになることだろう。サタンはわなわなと震え、落ちてくるカボチャをキャッチして叫ぶ。
「なぜ魔界の貴公子たる私が、カボチャなどかぶらなければならんのか!」
「お似合いですわよ!」
「やたらと似合うぜ!」
「よけいなお世話だ!」
 調子に乗ってウィッチとシェゾの二人がサタンをからかい始める。サタンが怒れば「パーティーまで時間がないぞ」の一言で抑え、ますます二人は調子に乗っていた。
「カボチャの貴公子、あら素敵な響きですわ。改名なさったらどうです?」
「自然に優しくまさに上に立つものとしてふさわしいじゃないか」
「な・ん・だ・と~!」
「おーっと、パーティーに間に合わないんじゃないのか?」
「うぬぅ、そ、そうだった……」
 もはや話は「サタンが腹を決めるか否か」になっている。サタンが折れるのも時間の問題だろう。
 ラグナスは少し哀れに思えてきて、フォローしてやろうかとも思った。ラグナスがシェゾとウィッチに口げんかで勝てるのかどうかはさておいて、彼は根が真面目だから。しかし幸か不幸かそれが果たされる前に、再び訪問者が現れた。
「サタン様!」
 ドアが壊れんばかりの勢いで、青い影が飛び込んできた。一瞬何事かと思って身構えたが、すぐに相手の正体を察知して、代わりにラグナスは彼女の名前を呼んだ。
「ルル……」
「わたくし、サタン様にふさわしい仮装をしなければならないのですけれど、サタン様は何になさって? あまり時間がないので急いで!」
 ラグナスの言葉も聞かずに、自分の言いたいことだけをまくし立てる。相変わらずのゴーイングマイウェイだ。ルルーらしいと言えばルルーらしい。
 美しい青い髪を持つ彼女は、髪の色に良く合う淡いブルーのドレスを着込んだままだった。大きくスリットの入ったデザインが彼女のスタイルを強調する。ハロウィン仕様に、所々オレンジの色彩が混ぜられていた。
 新たな客人に、ウィッチとシェゾは怪しげな笑みを浮かべる。しめたと言わんばかりだ。何かをたくらんでいるに違いないが、必死であるサタンもルルーも気づかない。ラグナスだけが傍観できる位置にいたが、今口を挟むとあらゆる方向から文句を言われそうで怖い。
「それがな、ルルー。今みんなでそれを考えてやっていたところなんだ」
 笑いをこらえた声でシャゾが言う。密かにウィッチと視線をかわした。
「それでわたくしたちは……」
 サタンの横に転がっていたカボチャを拾い上げる。ルルーはよほど必死なのか真剣な面もちでそれをにらみつけた。にっこり笑ったカボチャとルルーがにらみ合う。ラグナスは、二人の視線の間に、火花が見えた気がした。それほどルルーがカボチャを凝視しているのだ。
 何だか奇妙なムードだ。非常に緊迫した空気の中心にいるのはカボチャなのだ。カボチャは笑っていて、シェゾもウィッチも笑っている。サタンとラグナスは呆然と眺めている。ルルーだけが意気込んでいた。もはやどこから止めればいいのか、ラグナスには判らなかった。
「これがよろしいんじゃないかと言ってたところなんですよ」
「誰もそれが良いとは言っとら……」
「そうなのですね」
 サタンが何事か呻くが、見事ルルーの呟きにかき消された。呟きなのに圧倒的な威力を誇っている。こうなればもう、誰もルルーに敵わないのだ。
 さすがにカボチャはショックだったのか、ルルーはわなわなと震えている。暴走数秒前といったところだ。サタンは「あの」とか「えっと」と何か言いたげにしているが、もう遅い。シェゾはうろたえるサタンを見下ろして、「往生際が悪いぞ」と言い放った。
 ルルーが顔を上げた瞬間、誰もが「来た」と思った。
「判りましたわ、サタン様!」
 おそらく、ルルーは自分の中できれいさっぱり事実を塗り替えてしまったに違いない。実際の会話などルルーには関係ないのだ。彼女の中で行き着いた真実こそ、現実よりも正しい。
「このルルー、あなたのためならばカボチャでも何でも着こなしてみせます!」
「誰もカボチャが良いとは」
「サタン様の隣にふさわしくあるため、私も自らあなたと同じカボチャに扮しましょう!」
「カボチャにするとも言ってな」
「愛の力さえあれば何でも可能ですわ! これくらいこなせなければ、サタン様の后はつとまりませんもの! あのちんちくりんには出来ない所行、わたくしはきっと乗り越えて見せます!」
 言い終えるか終えないかといった頃に、ルルーはサタンのマントをがしりと掴む。首が絞まって、サタンはアヒルの鳴き声のような奇妙な声を出した。そのままルルーはサタンを引きずって隣の部屋へと消えていく。おそらく着替えに行ったのだろう。
 これでもう逃れようはない。サタンの運命は決まった。
「は……あっはっはっは!」
 ルルーの姿が完全に見えなくなると、二人は勢いよく笑い出した。堪えていた笑いが一気に吹き出したという感じだ。大成功を祝して、二人はハイタッチをする。小気味良い音が鳴った。
 シェゾとウィッチは満足げな顔をしているが、ラグナスは青ざめていた。正義感が強いだけに傍観していた自分をどう責めて良いのか判らないのだろう。何かをしなければならなかったような気もするが、火のついたルルーを止める自信もなかった。何度同じ場面を繰り返しても、ラグナスはやはり傍観するしかなかっただろう。
 珍しく機嫌のいいシャゾがラグナスに肩を叩く。
「いや~、傑作だぜ! あの二人がどんな格好で出てくるか楽しみだな!」
 人の不幸ほど面白い物はない。シェゾはラグナスが見たこともなかった笑みを浮かべて、まだ笑いが尽きない様子だった。ラグナスは引きつった笑みしか浮かべることが出来なかった。
「ねぇ」
 そっとドアが開いて、別の更衣室からアルルが顔を除く。その頭には猫耳がついていて、可愛らしくぴこりと動いた。
「大きな音がしたけど、何かあったの?」
 シェゾとウィッチは再び顔を見合わせる。数秒の間を置いて、シェゾが口を開いた。
「いいや。ルルーが来てわめいていっただけだ。サタンを連れて別の部屋に入っちまった」
 シェゾの笑みを見ればすぐに嘘だと判るのだが、アルルは特に気にせず「そっか」と頷いた。ラグナスとしては誰かにこの状況をつっこんで欲しかったが、望むのも無駄らしい。自分自身も何も言えずに、乾いた笑いをこぼすのみである。
 アルルはすでに着替え終えたらしく、ニコニコと部屋を出てきた。ぴったりとした黒い服に黒い耳。服の裾は長くてひらひらしていて、スカートのようになっていた。ご丁寧に手足にも黒猫を模した手袋やブーツをつけていた。
 なかなか本格的な仮装に、ラグナスは思わず感嘆する。
「よく似合ってるじゃないか!」
「本当?」
 アルルは耳をぴくんと動かして、満面の笑みを浮かべた。尻尾か嬉しそうにぱたぱたと動いている。どうやら尻尾や耳はマジックアイテムのようで、魔力で動いているようだった。無駄に本格的なのはサタンの嗜好らしい。
 アルルが小柄なせいもあるだろう。似合っている、というのはお世辞ではなかった。獰猛なはずの獣の姿は妙に愛らしい。
 まるでアルルの意志で動かしているかのように自然に揺れる耳や尻尾も、リアルな獣人のように見せていた。猫人間だと言っても、アルルを知らない人間だったら納得してしまうだろう。なかなかのはまり役だ。
「可愛らしいですわね」
 ウィッチも素直にアルルを誉めた。アルルは照れながら耳の後ろを掻く。くるりと一周してみせると、服の裾がふわりと舞う。どの角度から見ても自然だ。
 アルルもこの仮装が気に入ったようだった。手をほおに寄せ、あどけなく笑う。尾を左右に振りながら、ウィッチとラグナスの手を取った。そして、シェゾの方を振り返る。
 アルルと目が合うと、シェゾは息が詰まった。予想以上に似合った衣装は、確かにとても可愛らしく、シェゾもいつもの軽口がたたけない。ルルーならば「ちんちくりんのあんたにはやっぱりお子さまみたいな衣装が似合うのね!」とでも言いそうだが、残念ながら彼女は未だ更衣室で格闘中である。シェゾは結局何も言えずに、視線を逸らしてしまう。
 だからアルルがほんの少しだけ寂しそうな顔をしたのが見えなかった。アルルはすぐに視線を目の前の扉に戻して、はしゃいだ声を上げる。
「それじゃ、行こうか!」
 ドアの向こうには、色とりどりの光で飾られた、夜の闇。遠くには仮装をした魔導世界の仲間たちが、今か今かとハロウィンパーティーの始まりを楽しみにしている。その人混みの中に、アルルたちは飛び込んでいった。
 今宵は楽しいハロウィン。甘くて賑やかな夜が、始まった。


Fin.   

 ハロウィン小説、ようやくお届けいたします! これ書き始めたの、実は数年前ですよ(汗)。時間とページの関係上「イベントが始まる前しか書いていない」作品です。だって当日より準備の時の方がわくわくしませんか(言い訳)?
 何はともあれ、完成させることができて良かったです。ここまで読んでくださった方々、ありがとうございました!

2005.10.31   「空の手紙」 弥栄