「Dear My Brother」   〜スレ違イノ炎〜



「じゃあなー!」

 家の前で、そんな声がする。聞き覚えのある、やや高い、少年の声。
元気のいい、明るい、楽しそうな声だった。

 太陽はかろうじてまだ沈む前。赤い光が、家を照らす。
少年の家で、また、その家族の家でもあった。
 たった一人の、家族の。

 家の前には、少年少女が数人集まっている。
鳥のような羽の生える者、コウモリのように手が翼に進化している者と、
形態は様々だが、どれも子供である。
皆、同じくらいの年齢で、泥だらけであった。
恐らく、外で遊んできたからだろう。
 が、今はまだ、外から帰るには、少し早い時間であった。
大抵の子供は、親が食事を作り終えてから帰路に着くものだ。
この時間帯だと、ようやく親が食事を作り始めたくらいだろう。

「えー、ラウンド、もう行くのかよ?」

「そうだよ〜、まだ早いじゃん」

「もっと遊んでこ!」

 あからさまに不満を言葉にし、誰かが言った。続いて次々に、同意の声が挙がる。

 ラウンドと呼ばれた少年は、皆に優しく、友人達の中でも人望が厚かった。
 例えるならば、苦い薬の横の、一輪のひまわり。
無くても差し支えのない物だが、在ると安らぐ時もある。
無いといささか寂しく、違和感が拭えない。

「ラウンドがいないと、つまんない」

 誰かが、又ぼやく。ラウンドは、ただ笑顔を作って子供達を見ていた。
困った顔もせず、優しく子を宥めるように、微笑むだけだ。

 彼は、いつもニコニコとしていた。
幸せそうに、この世に生を受けたこと自体が奇跡であり、
生き続けることが何にも代えられぬ幸福であるかのように。
 彼は実際にそう思っていた。それは、周りにも判った。

 だが、ラウンドの笑顔は、それ以上を映さない。不快な影を落とすことはない。
 だから、つい子供の一人が本音を漏らした。

「そうだよ、ジルなんか放っておけって」

 ―――瞬間、ラウンドの笑顔が凍り付く。
その事実に、気付いた子はいなかったけれど。

 ジル。ラウンドの、弟。
幼くして両親を亡くした彼にとって、唯一の家族と言える存在であった。
 ジルは体が弱く、ラウンドとは打って変わって、内向的な少年だ。
その評判は悪く、悪口は絶えない。それでも、ラウンドはジルを嫌うことはなかった。
むしろ、ジルが悪く言われるごとに、余計溺愛していった。

 ラウンドは、笑顔を崩さず、それらの言葉に返す。

「いや、ジルって夕飯一人じゃ食べないだろうし。オレ、やっぱり今日は帰る」

 申し訳なさそうで、残念そうな口調をしていた。
今度、文句を言う者はいない。
ラウンドの、お人好しの性格を把握しきった友人達は、諦めて沈黙するしかなかった。

 優しすぎるのだ、ラウンドは。
いや、保護することが義務であるかのように、執拗に何もかも背負い込む。
何が彼をそうさせるのか、誰にも判らなかったが、
誰にも彼を止める術がないことは、明らかであった。

 ラウンドは、彼らの沈黙が、諦めだということには気付かなかった。
単純な思考回路は、その奥の感情までを読み取ることはない。
いや、ラウンドの単純さは、一種の自己防衛の術なのかもしれない。
不必要に傷つかないための。

 ラウンドはしばらくの間を、「理解してくれた」というふうに解釈して、
家の鍵を開け、ドアノブに手を置いた。
 それをひねる前に、一言。ラウンドは、振り返って笑顔で言った。

「それじゃあ、また、明日!」

 明日はもう、無いのだけれど。ラウンドは、別れを告げて、家の中へと消えた。


   ***


 家の中に、人影が二つ。同じ背格好の、同じ顔。
ただ、背に生える翼の形と、目つきが違った。

 一人は「竜」のような翼を持ち、悲痛な眼差しで一人を見て。
 一人は「堕天使」のような漆黒の翼を持ち、冷たくもう一人を見据える。
狂った眼差しだった。熱を帯びない瞳が、微動せず、空気を射抜く。
 「竜」は、視線を受け止め、悲しそうに歪んだ笑みを浮かべた。

 「堕天使」は手中に炎を生み出した。黒い、炎。
高温を放ち、触れた物を焼き尽くすであろう炎。光を放たぬ、黒き炎。
 炎を向けられた「竜」は、覚悟を決めるかのように項垂れる。
全て、これから起こりうることは、必然だというように。
諦めではない、情の流れに従っただけ。

 「堕天使」は、炎を放った。自らの胸部へ放った。

 「竜」が、起こったことを飲み込めず、驚愕に目を見開く。
理解するより先に、「堕天使」に駆け寄る。
 「堕天使」は、炎の合間に近付く人影を見ていた。
彼も、何故相手が近寄ってくるのかが判らなかった。
近付いたら、もう「竜」も燃える。「堕天使」は、「竜」が伸ばす手を振り払った。

 その瞬間、「竜」に炎が遷った。炎は、ひたすら燃える。
「竜」が、叫んだ。生きたまま焼かれ、焦がれてゆく。
異臭が、辺りに漂った。肉が燃える、臭い。
 感情が、混ざり合い、「堕天使」の脳内を襲う。判らず、燃える。

 「竜」は、涙を流し。

 「堕天使」は、ただそれを見ていた。



 見知った人影が、燃えていた。闇の中、一際大きく輝く光。
黒い炎は、光を放たないはずなのに。
 現に、俺を焦がす炎は、黒かった。

 痛みは、とうに麻痺していた。
代わりに、生物は基本的に炭素を主として構成されているから、
良く燃えるのだなと、よく判らないことに感心していた。

 何となく、記憶に引っかかっている、現状の動機。
確か、俺は、燃やしてしまいたかった。
 全て、灰すら残さず、消してしまいたい。
だから、炎を手にしていた。
 それを、あいつが邪魔したんだ。だから、あいつは燃える。

 暑かった。熱かった。あつかった。

 俺は、炎に手を伸ばし。
 当然の如く、炎は俺をも飲み込んだ。

 瞬間、痛みが蘇る。急に光を帯びた世界は、急速に回ってゆく。
 痛いってもんじゃない。死にそうなくらいに痛い。
意識など吹っ飛ぶ。全てが痛みと化す。
 こうして俺は消えていくのだろうか。結局、同時に生まれた、あいつと共に。

 もう、俺は自分が誰だか判らなかった。
 誰だか判りたかったのに。
現実は無情で、いくら答えを求めても、判らなかったから。
ならいっそのこと、消えようと思った。

 そして、灰すら残さずに、消えたのは、結局。


   ***


 気付けば、オレは白い天井を眺めていた。狭い部屋。
ドアが、一つある。窓はない。
 記憶にはない場所だ。単に縁がなかっただけだろうけど。
吹っ飛んで、十メートルくらい先にある意識の中、何となくだが見当は付いた。
 オレは、真っ白なベットに横たわっていた。

 横から、物音がした。
視線をやってみれば、ドアから誰か入ってくるのが見えた。
白い服を着た、女性。看護士だろうか、その制服には見覚えがある。
確か、学校の健康診断の時、何度か看護士を見かけたことがあるから。
とすると、やはりここは病院か・・・。

 彼女は、オレと目が合い、驚いた様に口を開いた。

「気が付いたの?」

 オレはとりあえず、頷こうとする。だが、全身に走る痛みに阻まれ、
ピクリとしか動かなかった。
 全身に巻かれる、包帯の下。
オレの皮膚からは、痛みの感覚のみが伝わってきた。

 どうでも良いことのように、ぼんやりと思い出す。
――そうか、オレ、焼けてたんだっけ――。

 あれだけよく焼けてたら、動くことは無理だろう、仕方なく諦めると、
オレは再び天井を眺める。
 女性が、尋ねてきた。

「君は、どっち?」

 何となく、意味は判った。
一卵性双生児だから、他人からの判別は難しいのだろう。
が、違和感を覚える。
 オレ達は、別々の翼を持っていた。方やは虫類、方や鳥類のような。
それなのに、判別できないものなのか?
 理由は、判った。

 翼など、何処にもなかった。焼け焦げて、跡形もなく消えていた。
その気になれば、出し入れ可能な物だったけど、しまい忘れたか。
しばらくすればまた再生するだろうが、今はダメージが大きすぎて無理だろう。

 成る程、これではどちらか判らない、と、オレは苦笑した。
 何せ、同じだから。他人には見分けなど付かない。
お互いを認識できるのは、翼以外では、お互いのみだった。

 そう、オレは。

「オレは、ラウンド」

「そう」

 女性は、頷く。動きは鈍く、堅い。

 後に続く言葉が、何となく予想できた。
全ては今、オレの一言で、決定づけられたのだから。
 そして彼女は、選択された事実を、告げた。

「ジルは、亡くなったわ」

 知っていた。そんなことはとうに。
 なぜなら、ジルは。



 ラウンドは、馬鹿な奴だった。単純で、お人好し。
そのくせ妙に手先は器用で、笑顔が、多い奴だった。
 ジルは、冷たい奴だった。悲観的で、残酷。
頭は良いくせに妙に不器用で、破壊願望が強すぎる奴だった。

 ラウンドは、兄。ジルは、弟。二人は、正反対の双子だった。
顔がうり二つなだけに、よけいに性格の違いが目立つ。

 ラウンドは、ジルを大切な弟として接していた。
 ジルは、ラウンドを憎しみの対象としてみていた。

 すれ違って、燃えて。

 片方は、灰すら残さず消えてしまった。


   ***


「おはよう」
 誰もが、オレの言葉に驚く。大きな木の、下。いつも、友人達と集まる場所。
そこにはいつも通りのメンバーが、いつも通りに集まっていた。
 その表情だけが、いつもと違って暗かった。今は、驚愕に染まっている。

 みんなは互いに顔を見合わせた。驚愕の色は、すぐに困惑へを変化していった。
 一人が、訊いてくる。

「ラウンド、お前、大丈夫なのか?」

 オレは小さく頷いた。何が大丈夫なのか、判らなかったが。

 誰かが、反論してくる。

「大丈夫なわけないだろ! 全身に火傷負ったんだろ? 安静にしてなきゃ」

「大丈夫だよ。オレの丈夫さ、知ってるだろ?」

 本当は、かなり全身が痛む。
もしかすると、傷口が化膿して、膿んでくるかも。だけど、ジッとしていたくなかった。
 怖いというか、何というか。認めたくなくて。
 何を? 何を? 何を?
 決まってる、何かを、だ。

 その時オレは、珍しく微妙な表情でも浮かべていたのだろう。
いつも笑顔しか浮かべていなかったのに。
 誰も、反論してこなかった。諦めというか、絶望というか。
そんな感情を、顔に浮かべていた。
 オレの顔は笑っていて、目が笑っていなかった。ジルの様な、笑い顔。
 みんなはこう思ったに違いない。
 
 オレは、壊れてしまったのだと。


   ***


 高く、冷えた丘の上。むき出しの岩肌、冷たい土と、空気。
 丘の上で、一人の少年が、星を見ていた。
夜空に輝く星々ではなく、夜の大地に広がる灯火。人間の住まう、「町」という場所。

 少年の姿は、人間と酷似していた。
が、月明かりに照らされ、闇の中に浮かび上がる、背中から生えた翼が、
人でないことを明らかにする。

 少年は、ただ光を見つめていた。
生きている灯火、何者にも同じように光り輝く、命の光を。
 消し去ってやりたくて。

 夜空を、一対の翼が舞った。



「ラウンド」

 白く長い廊下で、誰かがオレに声を掛けた。確かに呼ばれたのは、オレだ。
オレの名前はラウンドで間違いないし、廊下にいるのはオレだけだった。

 後ろを振り返ると、長老様がいた。白く長い髭を生やした、小柄な老人。
背に生える翼はしおれ、茶色くぱさついている。
 長老は、年老いてなお力強く輝いた瞳を持っていた。
まだ若く、光に溢れているはずのオレよりも、ずっと激しい輝き。

 オレは、首を傾げて応える。

「何ですか?」

 長老の表情は、堅かった。
良い話を持ちかけるために呼び止めたわけではないだろう。
 長老は、答えた。

「ラウンド。お前、夜中に魔族の集落を抜け出して、何処へ行っておる」

 突然覚える、違和感。そういえばオレは、どうしてここにいるのだろう。
 人間の住む地へ繋がる、白き回廊。オレはどうしてここにいるのか。
確かに、自分の家で、眠りについたはずなのに。
 そう言えば、やたらと眠い。今は、夜中なのか?
感覚が曖昧で、覚えているはずの事実は、何一つとして浮かばなかった。

 どうしてオレは、ここにいるんだろう。

 疑問を抱いた時、オレの存在が、酷く虚像じみた物の様に思えた。
 戸惑い、視線が虚空を泳ぐオレを見て、長老は、大きくため息をつく。

「もう良い、家路へ着いておれ」

 長老は、オレを横切り、白く長い廊下を渡っていった。

 酷く、置いて行かれた様な気がするのはなぜだろう。
酷く、遠くに感じるのはなぜだろう。
 酷く、無意味な気がしてくるのは、なぜだろう。

 さっぱりだ。いや、オレにとっては、だ。
俺なら、あるいは知っているかもしれない。実の所、俺にもよく判らない気がする。

 答えは。

 俺の馬鹿げたお芝居の、終わった先にある――。


   ***


 翌日、「町」から炎が上がった。闇の中で、燃焼する火。命。
 少年は、ただ光を見つめていた。
消えていく、最期に激しく燃え盛る、数々の命の光を。
 夜の闇は、寂しくて。叫び声すら、闇に消えた。
 「町」は綺麗に明るく燃えている。夜空は、暗い闇に包まれたままで。
唯一夜空に瞬く星々が、いくつか流れて落っこちた。



 願いをのせる、流れる星に。すぐに消え去る、幻想的な、儚い光に。
 一人では、生きては行けない。どうか、オレに勇気をくれ。
闇は、光の下に消えてしまうけれど、それでも光を掴む、勇気を。
 一時期の光は、すぐに消えてしまう。光が欲しい、隣で、自ら光り輝く、恒星が。



 流れ星も、命も消え去り、一人の少年は、また孤独となった。
 光は消えた。唯一の恒星も、流れ星も、人々も。
 光を、見つめていたい。そう望んで。少年はまた、星を探していた。



 俺は、魔族の集落へは戻らなかった。戻れば、俺はオレでいられなくなる。
 きっともう、気付いたはずだ。集落の者も、長老も、オレも、俺も。
 言えなかった。流れ星に、願いを、俺の、思いを。
一瞬で消える流星は、何も聞かぬまま、落ちていく。
 俺は、お前も、俺も、消してしまった。
 流れ星を、希望を、消し去ったのは俺自身。縋る物など、何もない。あるのは、闇。
 いくら光を熾しても、光は掴めなかった。


   ***


 夜空に、羽ばたく翼が二対。
少年の堕天使のように黒い羽が連なった翼と、老人の翼。

 老人は、静かに、音もなく少年に近寄る。
少年は拒むことすらせず、ただ老人を見ていた。
 老人は少年を哀れむが、少年は何の感情も瞳に宿してはいなかった。
自らを偽り、死人を演じた代価。

 少年が、手を老人へ伸ばした。
 少年の指先から、黒く鋭い爪が生え。
 爪は、老人の心臓を通り、裏側に貫通した。

 炎より赤い血が、舞う。しかし、命無き炎に輝きはなく。

 老人は、最後に宿した驚愕と共に。闇に埋もれて、消えた。



「ジル」

 誰かが俺の名を呼んだ。久しかった、自分の名で呼ばれるのは。

「あなたが」

 声の主は、俺を憎んでいるだろう。

「ラウンドを殺したの?」

 俺は、静かに答えてやった。

「ああ」

 ラウンドは、誰にでも好かれていた。
心の底から、ラウンドは全てを平等に大切にしていたから。
 俺は、彼らからラウンドを奪った。殺し、偽り、騙し。憎む理由は十分だ。
 憎まれたから、憎み返す。
 俺の方も、理由はそれだけで良かった。

「あなたを、殺す」

 悲痛な叫びにも聞こえる「宣告」に、俺は同じ言葉を返す。

「ああ」

 かくして、血は再び舞った。



 俺は一体何人殺せばいいのだろう。
 兄を殺し、兄を愛した者の数だけ殺し。

 気付けば、俺は、血の炎に包まれていた。
 赤い血は、俺の全身にこびりつき、やがては黒く濁ってゆく。死の色に。
 ラウンドは、そうして死んでいった。黒い灰と化して。


   ***


 あのときラウンドは、焼かれながらも何か呟いていた。
 消火の呪文。
 開いた口から、炎は、喉を燃やし、声になっていなかった。
 それでも呪文は放たれた。

 俺に。

 馬鹿だよ、本当に馬鹿だよ。
 自分が助かればいいじゃないか。
 呪文のせいで、最期の言葉も残せず。

 いや、最期の言葉なんて、必要なかった。
 俺はあいつの言葉を、知っていたのだから。



 生きて欲しい。例え未来に、死より辛い生があっても。



 馬鹿馬鹿しいと、俺はその時返した。
 だけど今思えば、それがあいつの遺言だった。
 いつも俺の我が儘ばかり訊いていて、何も求めなかったあいつが、
唯一俺に求めたこと。

 何も言えなかったのは、俺の方だった。
 あいつが生きている内に、言えなかった。
 本当は、一番言いたかった言葉なのに、日常の中に埋もれて、忘れ去られていた。 



 俺が消したかったのは、俺だ。
 俺は全てが憎かった。
 人間も、同族も、世界も。お前も。

 実の所、世界のことなどどうでも良かった。
 肝心なのは、俺がラウンドを憎んでいたこと。
 俺はラウンドを傷つけることしかできなかった。

 なのに、信じてはくれないかもしれないけど。



 俺は最も、あんたを。



 だから、死のうとしたのに。
 代わりに死ぬなんて、馬鹿だ。

 俺も馬鹿だ。守ろうとして、守れなくて、壊して。

 とんでもない馬鹿だ。


   ***


 炎が、全てを埋め尽くす。
 燃えない、真っ赤な炎が。
 俺はただ、炎をぼんやりと眺めていた。

 流れ星はもう流れない。希望など無い。

 あんたはもう戻らない。どれだけ後悔しても。
例え、あんたを演じたとしても。

戻るはずが、無かったのだ。

俺は、炎の海に身を投げた。
焼ける。全て焼けて無くなる。あいつが守ろうとした、俺の命も。
 燃え尽きる。

 暑かった。熱かった。あつかった。
 周りは、暑くて、熱くて。
 目頭が、熱くて、あつくて。

 これっぽっちの涙じゃ、炎は消せない。

 ただ、最期に、無駄だと判っていても。
 伝えたい。

 もっとも憎き我が兄へ。



 あんたが一番、大切だった―――。



END.



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